バカを見た正直者

ーネット恋愛や、ネットからの恋愛をしているあなたに読んでほしいブログー

竹中さんの姿を見つけたはいいものの、私はそんな顔をして会ったら良いのかわかりませんでした。

向こうから受けた傷を考えると、笑顔で再会するのも違うような気がしました。
何より、私が笑顔と作れなかったというのもあります。

竹中さんとの距離がどんどん縮まり、私は思わず目を逸らしてしまいました。
気づいていないふりを決め込んでしまいました。

本当に、わからなかったのです。


同い年とは思えないほどに、すっかり年を取ってしまったようなこの人に、かけてあげる言葉も見つからなければ、
自分を追い詰めたこの人に、ねぎらいの言葉をかけてあげられるほどの余裕も見つからなかったのです。
距離を詰められれば詰められるほど、私は視線に迷い、鞄を握りしめてうつむいてしまいました。



けれど、とうとう気づいいていないふりもできなくなった距離に来て、私はようやく、
顔を上げました。


その距離は1メートルもなかったと思います。


そして私は、おそらく、すごく険しい顔をしていたと思います。

けれど、それとは対照的に、竹中さんはどこか安堵したような笑顔を向けていました。
それでいて、何か珍しいものを見るような目でもありました。
なめまわすように、私の足先から頭の先まで、まじまじと見ていました。


ーそうか、前回はまだ髪が短かったんだっけー


半年の間に、私は髪を伸ばし、もともと伸びるのが早かった私の髪は、ショートヘアから、すっかりロングヘアになっていました。
改めて、会っていなかった時間の長さを感じました。


そこで私は、はたと思い出しました。


ーそうだ、竹中さん用に部屋を一つ取っておいたんだったー


一番初めに会ったとき、私は自分が宿泊するためにホテルをとっていました。
しかし、二人で別のところに宿泊してしまったため、自分のホテルに荷物絵お取りに戻る際には、チェックアウトギリギリの時間になってしまっていました。

今回はそれを避けるために、同じホテルの別室に、部屋を取っておきました。
同じ部屋で宿泊…という気分にはなれなかったのです。

また、私は建前上ではありましたが、「仕事のついでに」あっているということにしていました。
なので、私はあくまで仕事のついでであり、この人に会うためにわざわざここに来たのではない…。
だから堂々としていればいい。


私はひと呼吸おいて、竹中さんに声を掛けました。

「お疲れ様。
疲れたでしょ。一部屋余分に取ってあるからさ、とりあえず休みなよ。」

精一杯の作り笑顔で、私はエントランスへと竹中さんを招き入れました。

「部屋まで取ってくれてたんだ。
後でお金出すから。」

少しほっとしたような笑顔を向けていました。
そして、とても穏やかな口調でした。


ーこんなに穏やかに離す人だったっけ?ー


わずかな違和感を覚えましたが、私は

「いいよいいよ。
こんなに疲れた顔している人から、お金なんて取れないよ。
それに、まとめて部屋を取ったから安かったんだよ。だから気にしないでいいよ。」

少し、おどけた口調でそう話すと、竹中さんも了承し、
私はその部屋へと案内しました。


私が預かっていた部屋の扉を開け、竹中さんを先に通しました。

他の部屋の人たちはとっくに寝静まっている時間帯です。
私は、外で話すのも周りの迷惑になってしまうと思い、一歩だけ部屋の中に入り、竹中さんに部屋の鍵を渡しました。


「はい。ここの部屋の鍵。渡しておくよ。
私は一つ上のフロアに部屋を取ってあるからさ、ひと休み出来たら連絡して。
疲れてるでしょ。」


会えないかと、誘われてきたはずなのに、どうしても居心地が悪く、私は足早にその部屋を出ようとしました。


「確かに疲れたし横になりたいし眠い。けど、しろに大事な話がある。」


踵を返した私でしたが、こう、不意に部屋の中から声をかけられ、思わず振り返ってしまいました。

「大事な話?」

「そう、大事な話。」

真剣なまなざしでそういうと、部屋の中から手招きしてきました。

ー私も覚悟を決めなければならないー


私は、竹中さんの部屋の中へ歩を進め、そしてベッドに座る竹中さんに向き合う形で座りました。

私は再び、あの男に会う決意をしました。

会ってどうするのか。

私はその前日になっても、何も答えが浮かびませんでした。
相手がどう出るのか、
全く見えずにいたからです。

会うだけあって、そう一度はっきりと別れを告げられるのか…。

本来なら、もうすっかりお別れした身なので、向こうにとってもそうする必要がないことも分かり切ってはいました。

しかし、私はまだ恐れていたのです。
そして、怖かったのです。また、この人によって傷つけられることを。

けれど、「会わない」という決断も、私はできずにいました。


のちに知ったことですが、奈美ちゃんは奈美ちゃんで、相変わらず竹中さんに、再三注意をしていたそうです。
これ以上、しろを傷つけるようなことはしないようにと。

そして、会う約束をしていた前の日になり、ついに、
いえ、やっと、竹中さんもうりえるさんから逃れることができたそうです。

もともとは、どちらから近づいたのかはわかりません。

しかし、この頃には、竹中さんにとって、うりえるさんは恐怖を与える存在でしかなかったそうです。

とにもかくにも、当日までに、竹中さんはこれまでの女性関係をすべて清算出来たそうです。



そんなことを知らない私は、いろいろな意味で不安を抱えながら、東京へ向かい、車を走らせていました。

本来ならば、新幹線を使用したほうが早く着く距離です。
しかし、車で出向くことで、駐車料金は高くついてしまうかもしれませんが、
万が一の時に「今日は車で来たからお酒は飲めない。」とお酒を断ることができますし、
危険を感じたら、すぐに終電などの時間に左右されることなく、地元に逃げ帰れるからです。

会いたいという気持ち半分、信用できないという気持ち半分のまま、私は現地へ向かっていました。

途中、心配していてくれていた高杉が、仕事の合間を見ては何度も連絡をくれていました。
今どこにいるのか
無事に現地までたどり着けたのか

高杉と奈美ちゃんだけには、今回のことについて事前に話してありました。


しかし、奈美ちゃんは仕事が忙しく、ほとんど連絡が取れずにいました。

私は、高杉に休憩ごとに連絡を入れて、安否を知らせていました。
天候には恵まれていましたが、どうしても落ち着かない心境の中での運転です。
事故の可能性だって上がってしまいます。

けれど、高杉が必死に、冗談を言いながら連絡をくれていたおかげもあり、無事に宿泊先のホテルにチェックインできました。


待ち合わせは、竹中さんのお店が閉店してからです。
どうしても日をまたいでしまうでしょう。

夕方にホテルに入った私は、気持ちが落ち着かず、思わず「何をして時間を潰したらいいかわからない」と、高杉に連絡してしまいました。


すると、
「まずはゆっくりお風呂に入って体を休めること!長距離運転で疲労しているからね!
それから、睡眠不足は肌にもよくないから、かなり時間が早いけれど、お風呂を上がったらすぐに寝ること!
って、俺はお前のマネージャーか!!(笑)」

高杉の返信には、少し笑ってしまいました。
けれど、確かに体も疲れていたので、高杉の言うとおりにかなり早めに就寝し、
約束の刻限である3時に合わせて起きて準備をしていました。


結局、竹中さんのお店の閉店作業が長引いてしまったために、5時前まで私は待機することになってしまいましたが、
新宿での一人での飲み屋での待機に比べれば、大したことはありませんでした。


そして、ようやくその時は来ました。

「今からそちらに向かう」

私は自分の宿泊していたホテルの前で、竹中さんを待ちました。

程なくして、その人は姿を現しました。
しかし、その姿は、とても私と同い年とは思えないほど、
以前に比べて疲れ切っており、5歳くらいは上に見えました。

前回会ってから今回再会するまで、半年も経っていないはずです。

なのに、この半年間で、竹中さんはかなり年を取ったように感じてしまいました。

奈美ちゃんから話を聞いた後も、私の頭の中には「復縁」の文字は浮かんでは来ませんでした。

竹中さんが身を切るような思いで、女性関係の清算をしていることはわかっています。

けれど、この話をきたせてくれた奈美ちゃん自身も話していたように、
裏切り、私を捨てたのは竹中さんであり、約束を破った竹中さんが一番悪いというのも明白です。

今更、どうしてこの人を許し、
またこの人の元に戻ることができるでしょうか。

確かに私は自他ともに認める「お人好し」ですが、すぐに
「はいそうですか」と、竹中さんと連絡を取る気にはなれないまま、時間だけが過ぎていきました。



しかしその思いとは裏腹に、私は竹中さんは、この間も女性関係の清算を黙々と行っていたようです。
一つ一つ片付けては、奈美ちゃんに報告していたそうです。


そして、「こんな汚れ仕事しかしていない自分を、しろは受け入れてくれるのだろうか」と、たびたび相談していたそうです。
仕事との狭間で迷いながらも、向こうはやはり「復縁」という道を望んでいたようです。


けれど、私は、この人の仕事が嫌いで去ったわけではありません。
この人に別れを告げられたから、この人のもとを去ることを決意し、
この人に裏切られたことを知ったから、この人の元に戻らないだけです。


奈美ちゃんもそれは重々理解してくれていました。
だから、どうしても私と復縁を望むのならば、それなりの誠意を見せてみたらどうかと諭していたようです。

しかし、小心者の割には、プライドだけは高い人です。
はじめこそは押して来ていても、本音を言ってしまえば、
誰かを追いかけるよりも、誰かに追われていたい、そんな人です。


浮気や私をきれいごとだけを並べて捨てたという事実を、
自分の非を認めるなんてことは、まずしない人です。


しかし、奈美ちゃんはそんなこの人の態度が、本当に許せなかったのでしょう。
私が復縁を受け入れようが受け入れまいが、まず竹中さんが自分の非を認めること、
そして誠心誠意頭を下げる必要があることを、必死に説いていたそうです。

さらに、こう言ったそうです。

「しろがあんたに復縁話を持ち掛けてくることなんてまずない。本気でそう思うのなら、自分から動きな。
あんたの望む結果になるかどうかは、しろ次第だけどね。
大博打になることは覚悟しておきな。」




私がこのやりとりを知ったのは、もう少し後になってからでした。

私は竹中さんの思いとは全く逆の方向に進もうとしていました。

ー新しい恋など見つけられなくてもいいから、せめて竹中さんのことだけは忘れたいー

今まで以上に、仕事に没頭していました。
新しく始めた「はる」というアカウントでの配信も、かなり小規模なものになっていました。

暇な時間というものを、なるべく持ちたくはなかったのです。


県外への出張にも、積極的に出かけていました。
本当に、毎週のように関東甲信地方に出張に出ていました。
もともとドライブが趣味だった私にとって、車での長距離移動は全く苦にはなりませんでしたし、
何よりも、竹中さんのことを忘れられる、いい時間でした。


しかし、やはり頭の片隅には竹中さんのことが常にあったのでしょう。
彼の住んでいる地域付近に仕事に出る際には、
自然と必要以上に周囲を見ないように、仕事以外の人とかかわらないようにしていました。

ー思った以上に、心には刺さっているんだな。これは重症だー


忘れては思い出しふさぎ込み、
また忘れては思い出してふさぎ込む…。

その繰り返しでした。


そんな日々を送っていた時、久しぶりに竹中さんから連絡がありました。

メッセージで一言、「しろって最近は何時まで仕事してるの?」と。


久しぶりに来た連絡に驚くとともに、そんなことを知ってどうするつもりなんだという思いがせめぎあいました。
その結果、私はすごくあいまいな返事をしました。

「非常に不規則だよ。」

あながち、間違いでもありませんでしたが、
この返答を皮切りに、最近の私の仕事内容について聞いてきました。

最近もまた出張しているのか?
どの辺の地域が多いのか?
今度はいつ東京に来るのか?

特にやましい仕事をしているわけでもないので、私は素直に答えました。
けれど、東京出張についてだけは、本当のことは答えませんでした。

まさか、実は今現在、都内にいますなんて、私は言える心境ではありませんでした。


すると、「今度来るときに教えて。」と返事がきました。

スケジュールを確認しましたが、次回東京に来るのは、かなり先になりそうでした。
それどころか、隣県の千葉や埼玉でさえ、なかなか近い予定にはありませんでした。

しかし、だからと言って、「やっぱり今、東京にいるから用事があるなら会おうか」なんて言えるはずもなく、
また予定が立ったらねということで、その場の話は終わりにしました。


ーとりあえず、会いたがっているー


これからどうするか、私は考えあぐねていました。



私は帰郷してから、このことを奈美ちゃんに話しました。


「別に会ってもいいと思うなら、会ってきてもいいんじゃない?
けど、相手はあの竹中だよ。もしも会ってみて、やっぱり許せないと思うのなら、何も話は聞かずにすぐに帰ってきな。」


てっきり、「やめておけ」の一言で片づけられると思いました。
しかし、なんだか会う事に対して背中を押されたような、
まだ心の中からあの人が消えていないことを見透かされたような、そんな気持ちでした。


その後も「いつ頃東京方面に来るか」という竹中さんの連絡が何度かありました。

そして、私はついに折れました。
「今月の19日に千葉で仕事があるから、その夜なら大丈夫だよ。その辺に宿取るつもりだから。」

私はうそをつきました。
その日は出張どころか、ため込んでいた代休消化のための連休でした。


ーこれで予定が合わなければ、ご縁がなかったということで、私はもうこの人とは会わないー


ある種の掛けでした。
しっかり心に決めて、送信ボタンをタップしました。
すると、すぐに返事がありました。

「その日の営業終わりなら会えると思う。近くで待ち合わせよう。」


あっさりと、会う予定が決まってしまいました。


ー会った後にどうするかは、その時に決めようー


奈美ちゃんに言われた言葉を思い出しながら、私はまず会ってみるという決断をしました。

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