バカを見た正直者

ーネット恋愛や、ネットからの恋愛をしているあなたに読んでほしいブログー

「あれは本気だったと思うよ。けど、仮にそれを実行したとしても、こっちには確認のしようがないからね。」


女性関係を清算して、私を迎え入れる準備をする。

これまでの所業を考えれば、その時は本気だったとしても、今はどうかはわかりません。
何より、仕事のために複数の女性たちとそういうことをしているというのならば、
その生命線たるものを切る覚悟が本当にあるのか…。

あるいは、私などのために切らせてしまってもいいものなのか…。


私は思案していました。


すると、奈美ちゃんが続けます。

「あの男に、どこまでやれるかわからないけど、既に切る作業とやらは始めているみたいだよ。
ほんの今朝の話なんだけど、うりえるじゃないけど、あいつの配信の視聴者が一人、『彼氏と別れました』みたいなことをTwitterに上げていたからね。
9人のうちの一人という確証はないけれど、私は可能性は大いにあると思って見ているよ。」


ーそうか、既に始めているのか…縁切りの作業をー


「あの男の話が本当なら、他の女たちもうまい具合に他の同業者の男に売られるか、さっさと何らかの方法で金にするんじゃないかな。
そんな人数、すぐには捌けないだろうがって言ったら、こいつらのことは金としか見ていないから、いつでも切れますとか言ってたよ。残酷だけど、そこまでしてあんたを取り戻したいみたいだよ。
多分、あんたにしてもらったみたいに真剣に誰かに思われたことなんてなかったんだろうね。
それのありがたみに今頃気が付いたみたいだよ。
本当に馬鹿な男だね。」



私の見えないところで、人ひとり、いや、何人もの人の人生が変わろうとしていることに、少し戸惑いを感じました。

しかし、これは彼自身が竹中さんの意志で行っていることです。
そもそも、9股もかけていること自体がほめられたことではないですし、
目的は何であれ、それを卒業しようとしているこの人を、下手に私が口をはさんで止めることなどできようはずがありません。


竹中さんにある意味利用された人は、かわいそうだったかもしれません。
けれど、その人たちのことを思いやれるほどの気持ちの余裕は、私は持ち合わせていませんでした。


かといって、じゃあ、竹中さんとよりを戻したいかと聞かれれば、
それもまだ考えられない状況です。



「別に、こんな話聞いたからって、あんたが責任を感じることはないし、一番悪いのは竹中なんだよ。そこは、何がどう動こうが変わらない。
私も、竹中がここまでしているんだから、あんたもよりを戻す方向で考えてあげたら?なんて言うつもりもないよ。
たださ、あのバカもバカなりにいろいろ考えてるのは確かだし、お人好しのあんたのことだから、あのバカがどうしてるか心配なんじゃないかと思って話しただけさ。
だから、頭の片隅に入れておくだけでいい。何なら今の話は忘れてもいいよ。
私が話したかったから話しただけさ。」


奈美ちゃんには、本当にかなわないと思いました。

未練という言葉では片づけられないような、竹中さんへの心配と不安が渦巻いては消えている毎日だったのは確かです。
ちゃんとこの先、この人は生きていけるのだろうか…。
親心のような心配をしていた日さえありました。


本当に、どこまでも私の心の内を読んでいる人だなあと感じてしまいました。

食事が済んだあと、場所を変えて、私たちは話の続きをしました。

「竹中は、もううりえるとは終わりにしたいらしいよ。」

それはそうだろうなと、私も思いました。
強気な発言も多いし、巨星だけで生きてきたようなところもある男ですが、
今回ばかりは巨星の晴れる相手ではないことは、私にもわかりました。

けれど、私は知っています。
あの二人のツイッターを見る限りでしか、二人の関係性については伺い知ることはできませんが、
少なからずこの二人は何度が喧嘩をしています。

そして、そのたびにうりえるさんに追いすがられて、仲直りしているのです。

「別れようとしたところで、うりえるさんが竹中さんを話さないんじゃないかな。」

私は奈美ちゃんに問いかけました。

「確かに、あの男は自分のことを追い回してくれるような女を好む傾向にはあるね。
確かに容易じゃないと思うよ。
けれど、今回ばかりはわからないだろうね。」


そして一息ついた後、奈美ちゃんは続けました。

「竹中がね、しろの近況についてたやらと聞いてくるんだよ。」

「私の?」

あんなにうりえるさんにご執心の竹中さんにとって、私のことなど、頭の片隅にすらないと思っていたので、本当にそれは、思ってもみない言葉でした。


「そう。あんたの近況だよ。
また体調壊したりしていないかだとか、仕事には戻れたのかとか、無理していないかとか。
彼氏でもないくせに、そんなこと聞いてどうするとは言ってるんだけどね。」

全くその通りです。
浮気のこと、それを隠して自分の都合のいいことばかり口にして別れたこと、
私は許したわけではありません。

「随分と調子のいい男だね。こっちの気も知らないでね。」

「まったくだよね。
まあ、勝手に死んだことにされても困るから元気にしているよとだけは伝えた入るけどさ。」


別に、竹中さんの中では、私は死んだことになっていてもいいんじゃないか、
そう心の片隅で思ったのも事実ですが、奈美ちゃんの好意を無下にすることもできないので、その言葉は呑み込みました。


「さっき、あんた、『あの男は自分のことを追い回してくれるような女を好む』って言ったじゃん。
あいつ、本当に馬鹿だなって思うんだけど、あんたのこと振っておいて、本当はあんたに追いかけてほしかったみたいだよ。」

「……は?」

思わず、不快感をあらわにしてしまいました。


「なんでもね、そうやって自分が逃げても追いかけてくるような女を大切にしていきたいんだって。
そうやってある意味ふるいにかけているというか…。
だからあの時も、あんたに追いかけてほしいって気持ちがあったみたいだよ。
仕事とはいえ、9股もかけていたような男のくせに、本当に虫のいい話だけどね。」


本当にその通りだと思いました。

けれど、私は直感的に感じました。
この人は、本当に自分に自信がない人なんだなと。
自分には価値がない、生まれてこなければよかった存在という決めつけが、いまだに心の中にあるのだなと。

だから、あえていろんな人を試して、ふるいにかけて、最後には誰も残らない…。
ちょうど母親に甘える子供のように、両親を試す幼子のようなことを繰り返してきたのでしょう。
そんな状況の中を、ずっと生きてきたんだろうなと、容易に想像できました。


「けど、あんたはそういうタイプじゃないでしょ?」

奈美ちゃんの問いかけに、私は返します。

「そうだね。多分、付き合ってしまえば相手を疑いたくはないから、試すことはしないかな。
特に竹中さんは『浮気はしない』って約束したうえで付き合っていたからね。」


「だろうね。
そんなあんただから、あんたは奴からの別れを素直に受け入れた…。そういうことだよね。
けど、あいつにとっては、それは誤算だったらしいよ。

あんたは追いかけてこなかった。それどころか、あんな男に感謝の言葉さえ伝えて立ち去った。
これがかなり刺さってしまったみたいだよ。

確かに9人の中の一人だったかもしれない。けど、奴にとっては、決して金として扱うことのできない唯一の存在があんただったんだよ。
それを、自らの自信のなさと甘さで手放したわけだ。本当に、バカな男だよ。」


奈美ちゃんは、竹中さんの生い立ちのことは知らないようでした。
だから、簡単に竹中さんの行動をバカだと批判できたのでしょう。

確かに、私も、試された側としては、まったく怒りを覚えないわけではありません。
けれど、怒りよりも先に哀れさを感じてしまいました。


ーあの人が欲しかったのは、ただの彼女じゃなくて、お母さんだったんだー


「あまりの馬鹿さ加減にさ、もう面倒だから一から教えてやったよ。
どうしてあんたが、竹中の後を追わなかったか、
それと、それまでどれだけ信頼されていたか、そしてどれだけひどいことをしでかしたのかをね。
そうしたら、あいつなんて言ったと思う?」


私が答えが見つけられず困惑していると、奈美ちゃんは教えてくれました。


「『しろは、もう俺のもとには帰ってきてはくれないんでしょうか?』だとさ。
今更もう遅いって話だよね。
だから言ってやったよ。『9股かけて、なおかつ表でうりえるうりえるってのろけてる男のところに帰るほど、あの子は馬鹿じゃないんだよ。あんたやあんたが売ろうとしてる、頭の悪い女連中とは違うんだよ。』ってね。」


あんたみたいな人間をただひたむきに信じていた女を裏切った罪は、本当に重いと思うよ。
もう二度と表れないだろうし、しろにしたって、9股は知らないとしても浮気の事実は知ってるんだから、もう帰ってこないかもね。


私のことを思ってというのもあるのでしょう。
奈美ちゃんは竹中さんにそう伝えたそうです。


すると、竹中さんは奈美ちゃんに向かってこう宣言したそうです。



「俺はこれから、うりえるも含めて、全員の女を切ってきます。
しろ以外はいらない。」

随分と長居をしてしまったのでしょう。
高杉の工場を出るときには、日がすっかり傾きかけていました。

「夕暮れは危ないから、気をつけて帰るんだよ。」

高杉はやさしく声をかけて、私を見送ってくれました。


ーああいうところに奥さんも惹かれたんだろうなー


そう思いながら、私は家路を急ぎました。

ーそういえば、夕ご飯の材料を買いに行くの、忘れてたな。夕飯、何にしようー


すっかり話し込んでしまっていたせいで、完全に頭から抜け落ちていました。
お惣菜でも買って帰ろうかなとスーパーの駐車場まで来た時に、奈美ちゃんからの着信がありました。

「今日の夜ひま?一緒にどこか食べに行かない?」


私は、二つ返事で誘いに乗りました。

やがて、約束していたパスタ屋さんに行くと、奈美ちゃんは既に到着していました。

「遅くなってごめんねえ。」

と頭を下げながら、二人でお店に入っていきました。
そして、それぞれ注文をすると、奈美ちゃんが

「竹中のことなんだけどさ…」

と口を開きました。

まだ何の気持ちの整理もついていませんでした。

ー聞いたところで、私にはどうすることもできないし、心の余裕がないよー

そう思いながらも、奈美ちゃんの次の言葉を待ちました。

「竹中、あんたと付き合っていた時、9股してたんだって。」


もう、言葉が出ませんでした。
すると、奈美ちゃんが話を続けます。

「もちろん、例のネットからのスカウトってやつだね。金にするんだってさ。
もう、ここまではっきり言われちゃうと、逆に気持ちいいよね。」


ーなんだ、お仕事関係かー


騙されている方々には申し訳ないけれど、もう、竹中さんに騙されてしなった女性たちには、何の感情もわきませんでした。
いえ、正確には、少しうらやましかったです。

騙されているとはいえ、好いた男の役に立てるのだから、私はうらやましく思えました。


「だからね、何の感情もわかないけど、頑張ってご機嫌取りをしているみたいだよ。」


そうなんだ。としか、返事ができませんでした。


「それでさ、うりえるなんだけど」

ーああ、一番聞きたくない名前だ…ー

表情に出てしまったのか、奈美ちゃんはやっぱり今はやめとこうか?と気を遣ってくれました。
けれど、こうやってあえて話してくれるということは、
遅かれ早かれ、私が聞いた方がいい内容なのだろうと、私は心を決めました。


「うん。大丈夫だから聞かせてよ。」

精一杯の作り笑いで答えました。
それなら話すけどさ、と奈美ちゃんは話を続けてくれました。


「どうにもうまくいってないみたいだよ。
なんでも、竹中がうりえるにカマかけてみたら、簡単に風俗で働いてるのをぽろっと話しちゃったみたいだよ。
当の本人はまだまだシラを切るつもりでいるから、必死に否定しているみたいだけど、嘘をつかれたってことで、竹中の不信感はMAXみたいだよ。」


それを聞いて、私は思うところは山ほどありましたが、黙って話を聞いていました。


「それでね、極めつけはあの女、実はかなりやばいやつなんじゃないかっていう話なんだよね。」

……やばいやつ?

「これまでの時点で、十分色々とやばい奴だと思うんだけど…。」

思わず、つっこみを入れてしまいました。


「まあ、それは間違いないんだけどね。
とりあえず、その場は竹中もうりえるの話に乗って、仕事のことに関してはなかったことにしたらしいんだけど、それから注意深く話を聞いていると、どうやらうりえるの使う言葉が普通じゃないらしいんだよね。」

「方言とかではなくてってこと?」

「方言じゃないね。よくよく思い返してみたら、事あるごとに『この世界から足を洗ったら、一緒に幸せに暮らそうね』とか、『堅気の女は甘いから、亮平にすぐに騙されるんよね』とか、竹中とけんかをすれば、『私がその気になれば、都内にある店の一つや二つ、簡単に潰せるんだからな』って脅してきたりとか。」

「奈美ちゃん、それってさ…。」

私は予想をはるかに超えた状況に、息を飲みました。

「まあ、何かの脅し文句に、そういう言葉を使うやつ買いるかもしれないよ。
けど、脅し文句だったにしても、この女はかなりやばいだろうね。
さすがに竹中も距離を取り始めたらしいよ。
万が一、本当にその手の人間だったら、竹中だってこの先、どうなるかわからないからね。」


もしも本当だったら、温室育ちの私には想像できないような怖いことが待っているのだろう…。


ー命の危機さえ感じてしまうような、そんな危険な人とかかわっているのかもしれないー


私は、私を裏切ったあの男に対し、あの時以来初めて、心の底から身を案じてしまいました。

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