バカを見た正直者

ーネット恋愛や、ネットからの恋愛をしているあなたに読んでほしいブログー

私の心も荒み切っていましたが、竹中さんもまた、だまされていたという意味では被害者でした。

本来ならば、同情すべき部分でもあるのかもしれません。
しかし、この時の私には、まだそのような心の余裕はありませんでした。


日陰者にされ、絶対に公表されなかった私、
大々的に公表され、すごく大事にしていますよというようなアピールも散々されていた彼女たち。

正直に、竹中さんの言葉を信じ、日陰者でもひたむきに一途に相手を思っていた私がバカでした。



奈美ちゃんは、竹中さんがこれからうりえるさんとのことをどうするかはわからないけれど、
散々突き放しておいて尚も、一応申し訳ないという気持ちは持ち合わせているとのことでした。



けれど、仮にそういう気持ちが竹中さんの中にあるとしても、
それをどう受けとめたらいいかわからないまま、時間だけが過ぎていきました。




体力も回復していき、これまで通り少しずつ首都圏や関東方面への出張が増えてきたころ、
私は出張に使っている愛車の整備のため、近所の車の整備工場に行きました。


その工場では、高杉という男が私の車の担当に当たってくれていました。

高杉は私の幼馴染で、親の代から続いている整備工場で働いていました。


私の出向いた時間がちょうどすいている時間帯だったためか、他にお客さんは誰もおらず、高杉のお父さんも仕事で外に出ていたため、工場内には私と高杉の二人しかいませんでした。

幼馴染で、震災の後も近所に住んでいた割にはなかなか会う機会もなく、
久しぶりに会った私たちは、整備の合間合間に、
他愛のない世間話や、最近生まれたという彼の子供の話などで盛り上がっていました。



本当に、高杉は気心知れた仲間で、何かと困ったことがあれば、相談していた相手です。
けれど、震災で辛い思いをしたことや竹中さんとのことなどは、それまで一切話したことはありませんでした。


しかし、この頃は私も落ち込んでいたのでしょう。
誰かに聞いてほしかったんだと思います。
思い切って、高杉にこれまで竹中さんとの間にあったことを話してみました。


ーインターネットで配信なんて、絶対ドン引きされるー


そう思いながらも、私の頭の中はパンク寸前だったのでしょう。
配信を始めた経緯からアカウントまで、すべて話していました。


すると、高杉の口から意外な言葉が飛び出しました。

「俺も結構ネットやってるよ!たぶんしろよりもずっと前から。
俺はあんまり友達が多い方じゃないからさ、ネットを通じて友達が増えたらいいなって!」

意外でした。
幼いころから知っていて近くにいて気心知れた中であったせいもあるのでしょう。
高杉は友達が少ないなんて思ったこともありませんでした。
そして、ネット配信者としては私よりもはるかに先輩であったことも知りませんでした。

絶対、「ネットで配信とかお前、根暗過ぎない!?」
とか言われると思っていたのに、それどころか私の配信を見てみたいとすら言われてしまいました。

ただただ、驚きました。


本当に、私は偏見だらけの狭い世界にいたんだなと強く感じました。


予定していた整備もすっかり終わっていたのに、高杉は最後まで話を聞いてくれました。
そして、私に言いました。

「しろは、素直すぎる。」



以前、配信を始めたばかりのころにも、私によく懐いてくれていた学生のの視聴者さんにも、同じことを言われました。

「しろ姉は根っからの悪人なんていないって言うし、倫理の授業で習った性善説って奴を本当に信じているような人間だけど、いつか本当に悪い人に騙されないか心配。」


確かに、中学のころには、クラスにはそれなりに悪いことをしている同級生もいたし、
テレビをつければ、ニュースで犯罪が取り扱われない日なんてありませんし、不倫がテーマのどろどろの昼ドラなんかも放送されていたりもします。

今も昔もです。

けれど、いつもどこか他人事のように思えていて、
違う世界のお話としか考えられていなかったのかもしれません。


お堅い職業の両親に、少しか保護に育てられてしまったせいか、
本当に思考が温室育ちだったようです。

「竹中の奴に、説教ついでに事情を聞いてきたよ。」


やはり、奈美ちゃんからの話というのは、うりえるさんとの間にあったことの全容のようです。

「あいつさ、うりえるの本当の職業ばらしたらうろたえ始めてんの。
初めは信じてなかったけど、証拠を送り付けてやったら、本当にビビっちゃってねえ。
本当に馬鹿な男だよ。」


これから、そのうりえるさんとの全容について明かされるのだろう。
そうすれば、私の中でも、一つ気持ちの区切りがつくかもしれない。

私は居住まいを正して、奈美ちゃんの言葉に耳を傾けました。


「とりあえず、あいつはどうしようもないバカでさ。うりえるの言うことを端から端まで信じちゃってたわけよ。」


うりえるさんの仕事のことも、本当に知らなかったそうです。
夜に連絡が取れなくなるのは、寝ているか、飲み歩いているものだとばかり思っていたそうです。

ただ、竹中さんも初めは浮気をしようと思ってうりえるさんに近付いたわけではなかったようです。

うりえるさんが住むのは福岡。
うまいこと自分を信用させて、時期が来たら、自分の福岡のつてを利用して、うりえるさんを売ろうとしていたそうです。


しかし、うりえるさんは既にそういったお仕事をしています。

そして、うりえるさんのほうが一枚上手でした。


竹中さんに事実かどうかもわからない、自分の壮絶な生い立ちについて語りだしたそうです。

所詮はネットの世界です。
嘘なんていくらでも付けます。
けれど、この生い立ちというのが、同じく悲しい生い立ちを持つ竹中さんの心に響いてしまったようです。

初めは同情心から、やがてはそれ以上の関係になっていったようです。


しかし、それを聞いた奈美ちゃんが黙っているはずがありません。

「へえ。じゃあその本当かどうかもわからない生い立ちとやらに絆されて、何の罪もないしろを振ったわけね。
浮気をしないって約束も破って。
病気で体も思うようにならなかったしろを置き去りにして。

あんな女の口車に乗せられてねえ。
女の口車に乗せられるようじゃあ、女を扱う仕事なんてできやしないでしょ。素人でもわかるだろうが。」


竹中さんは何も言えなくなってしまったそうです。
けれど、竹中さんも反論しようとします。

「でも、うりえるがー」

「うりえるが、何?うりえるが何を言おうが、どこでどんな環境で育っていようが、
それこそ仮に本当にひどい過去を背負っていようが、
てめえだけ綺麗事ぬかしていい人ぶって、浮気していい理由になんかならねえんだよ!!」


奈美ちゃんの一喝に、竹中さんは今度こそ反論ができなくなってしまいました。


「僕はどうしたらいいんでしょうか。
謝るにも、合わせる顔がありません。何よりも、うりえるが今はいます。
そんな僕の謝罪を、しろは受け入れてくれると思いますか?」


消え入りそうな声で、竹中さんは奈美ちゃんに尋ねました。


「まあ無理だろうね。だって、しろもうりえるとのことは知っているし。
あの子、見つけちゃったんだよ。あんたがこれ見よがしにペアでアカウント作っちゃってるのをね。
私が教えるよりも前に知っていたから。
そして、浮気されたことも知ってる。

しろを頑なに日陰者扱いして、うりえるやれんを持ち上げていたこと、あの子は全部知っているんだよ。
れんの時はあの子も許したけど、あんた、もう浮気はしないって約束して付き合ったらしいじゃないの。
それを、うりえるとかいう素性もわからないような女を引っ提げて頭を下げに行くわけ?
私なら受け入れないね。どうかしてるよ。それで許してもらおうなんて。」


確かにその通りでした。
今、もしこの場に謝りにに来られても、聞き入れることはできませんでした。
もし、顔を合わせようものなら、うりえるさん共々殴りかかっていたかもしれません。
それくらい、私の心は荒んでいました。

少しの間お休みお頂いたのち、私は職場にも復帰しました。

初めは半日だけ、そして慣れてきたらフルタイムと残業と、少しずつ体を慣らしていきました。


休んでいた分の遅れを取り戻すように、私はがむしゃらになって働きました。
しかし、ふと気が抜けた瞬間に思い出すのは奈美ちゃんから聞いた竹中さんの話でした。


彼が仕事のために、生活のために、違法ぎりぎりのラインのことをしているのは理解できました。
それしか道がなかったのでしょう。

本来ならば、この裏切りは仕事のためであり、
竹中さんからの別れの際の言葉を真実として受け止め、
自分から竹中さんに返した言葉の通り、
「夜職だろうと一般職だろうと竹中さんを応援する」のが筋なのだろうとは思います。


けれど、この言葉を送ったときには、私の頭の中には、うりえるという「第三者」の存在がすっぽり抜け落ちておりました。
だからこそ言えた言葉なのでしょう。


自分は悪くない、あくまでしろのためを思って別れるんだというスタンスが、今更ながら腹立たしく思えてきました。



別にその傷を癒そうと思ったわけではありませんが、
何の気なしに、私は新しい配信アカウントを取得しました。

ここで新しい出会いを…というわけではありません。

ただ、私のことを何も知らない人と話してみたかったのだと思います。


以前のアカウントは残したまま、
新たに「はる」として、以前よりはかなり小規模に配信者として生まれ変わりました。

「はる」になってからは、良くも悪くも視聴者さんとは距離を置き、深い付き合いはしないようにしていました。
そして、自分の体力とも相談しながらの配信だったので、本当に短時間しか行っていませんでした。

また、「はる」はもともとのアカウントほど、いい意味で愛想がなかったので、変な出会い厨も寄り付くことはありませんでした。
適当にBGMをかけつつ夕ご飯を作りながら、あるいは自宅へ物ち帰り仕事をしながら、片手間にお話をしているような配信でしたので、良くも悪くもかつての配信アカウントほどは人気が出なかったのです。


しかし、目聡い人にはすぐに見つかってしまいます。


「はるさん、初めまして。てか、あんた何してんのw」



早速奈美ちゃんに見つかってしまいました。
けれど、別にやましい話をしていたわけでも、
ましてやこれまでの経歴は本当に伏せたままの配信者として配信していたので、何も問題はありませんでした。


「ちょうどよかった。あんたに伝えたいことがあってさ。
ちょっと話せる?」


私は配信を切り上げると、奈美ちゃんからの連絡を待ちました。


ー奈美ちゃんは、本当に竹中さんにお説教でもしてきたのだろうかー


ぼーっとそんなことを考えていると、奈美ちゃんから着信がありました。

どんな真実を聞かされるのか、
あるいは奈美ちゃんがどんな言葉を竹中さんに投げかけてきたのか…

恐る恐る通話を取りました。

「もしもし?」

「配信中に悪かったね。今少し話せる?」

「別に真剣に配信業にいそしんでるわけじゃないからいいよ。普通の仕事で十分生活できるし。」

「それは間違いないね。どこかの信者からのお金でマンション借りてる女とは違うもんね。」


ナチュラルに苦々しい思い出をつつかれた気がしました。

配信と、その信者からの寄付で生きている女配信者、
そして、竹中さんに嘘をついて、内緒で夜の最下層の仕事をしているという女配信者。

その二人に負けてしまった一般職の私。


別に、配信者として名を上げたいとか、そういう気持ちは毛頭ありません。
インターネットで配信活動しているなんて知れたら、たとえとがめられることはなくとも、
現実世界では、まだまだ白い目で見てくる人もいるでしょう。

かつての、配信者になる前の私自身もそうでした。


けれど、今は配信をしている人を白い目で見ようとは思いません。
それは私の偏見であったこと、
わずかな期間ではありましたが、上記のような人以外にも、まともに働いている人でも、息抜きに配信をしている人がいるのを知りましたから。


そんなことを思いながら、奈美ちゃんからの話を待っていました。

↑このページのトップヘ