バカを見た正直者

ーネット恋愛や、ネットからの恋愛をしているあなたに読んでほしいブログー

玄関の前に立っていたのは奈美ちゃんでした。


「遊びに来てあげたよー!」


泣き顔を見られたくはなかったけれど、
唯一、私のネットからの恋愛や竹中さんのことを知っている彼女です。

私も少し、話を聞いてもらいたかったのでしょう。
カギを開けて、奈美ちゃんを招き入れました。


「どうして泣いてんのさ。」


その言葉に、私の目からは堰を切ったように涙があふれてあふれて止まりませんでした。

そして、リビングの床に座ると、
今見つけてしまったアカウントのこと、
私は浮気されていたこと、
私だけ日陰者にされて辛かったこと、

すべてを打ち明けました。


奈美ちゃんは、最後までうなづきながら、私の話を聞いてくれました。

そして言いました。

「見つけちゃったんだね、あのアカウント。」

奈美ちゃんも少し前に、偶然、そのアカウントを見つけていたようです。
仕事の一環かもしれないけれど、実は浮気であったこと、そこまですべて知っていました。


そして、こう付け加えました。

「あの女も配信者らしくてね。
どんな女かと思って、あの女の配信に潜り込んできたんだよね。
昼間は派遣会社で少しだけ働いているけど、夜は風俗で働いているんだってさ。
昼間の仕事だって、世間体のためだけに働いているだけで、ほとんど真面目に働いてないみたいだよ。
知らないふりして本人に直接聞いてみたんだけど、彼氏には夜働いているのは内緒なんだってさ。
同じ夜の中でも、彼氏がドン引きするような仕事だからなんだってさ。」


奈美ちゃんは、本当に仕事が早かったです。


「付き合っていること自体、竹中のいうお仕事なのかどうかはわからないけど、しろが相手にするような価値はない女だよ。
夜職だから言ってるんじゃなくて、あいつは本当にしろに害しか与えないから、しろは関わらないほうがいい。」


うりえるさんにしたって、本当は壮絶な生い立ちがあって、どうしようもなく、そういう生活を強いられているのかもしれません。

もともとの私でしたら、そう思えていたでしょう。

奈美ちゃんは、わたしのその考えを優しすぎるといつも言っていました。


しかし、これが優しさならば、
この時の私は、完全に優しさをどこかに落としてきてしまっていたのでしょう。


冷たい私は、このうりえるさんに対して、同情心の一つすら持てずにいました。
不思議なくらい、心が、感情が動かなくなっていました。


奈美ちゃんは続けます。

「いずれにせよ、このうりえるって奴が何者であれ、竹中が犯した罪は大きいよ。
約束したんだろ?今度は浮気しないって。
言い寄ったのはどっちかわからないさ。けれど、約束を破ったのは竹中だ。
こいつらはまだ、私やしろがこのことに気づいていないと思ってる。
少し締め上げないと、大事な友達ををここまで傷つけた私の気が収まらないな。

しろ、少しこの男を締め上げてきてもかまわないよね?」


私はもう、頭が回っていませんでした。


「うん。思う存分、奈美ちゃんの気が済むまでお説教してきてもいいよ。奈美ちゃんが犯罪者にならない程度にね。」


私は完全に上の空でしたが、奈美ちゃんの申し出を受け入れました。
ただただ、私の身をいつも案じてくれていた彼女の申し出を断ることなんて、私にはできませんでした。

奈美ちゃんからもたらされた情報により、私の竹中さんへの見方は少しずつ変化していきました。


ー生きる世界が違う、
そして、竹中さんの生きている世界では、私は足手まといになってしまうー


竹中さんは、私をその世界に落としたくないから、私を突き放した。
そう思い始めていました。


いえ、そう思わなければ心がもたなかったのだと思います。

過去にも浮気で私と別れた竹中さんです。
今回は浮気ではなく、私のために私を捨てたのだと、そう思いたかったのです。


ーもう、あまり考えないようにしようー


何度もそう思いましたが、実際に、本当の意味でお付き合いをしていた私には、なかなかそこにしっかりと踏み込むことができませんでした。



程なくして私はようやく退院することができました。
そして、職場復帰に向けて、自宅アパートで療養していました。


あまり周囲に心配をかけたくなかった私は、入院していたことすら、本当にごく少数の人にしか話していませんでした。

それゆえ、自宅療養中は、ほとんどの時間を一人で過ごしていました。

たまに暇を見つけて、奈美ちゃんが遊びに来てくれるくらいで、
家のことをする他はテレビを見たりネットを眺めたりして、暇をつぶしていました。


そんなある日、なんとなくTwitterを眺めていました。

みんな元気そうだなあ、そろそろお花見の季節かあ…。

何も考えずにいろんな人のいろんな日常を眺めていると、ある一つのアカウントに目が行きました。


どうやらカップルのようで、アイコンはいわゆるペアアイコン、ヘッダーもお揃いのものでした。
そして、プロフィール欄には、お互いのTwitterIDが記載されていました。



ー仲がいいんだろうなあ。お互いにお互いを、誰かに取られたくないんだろうなー

ーそういえば、竹中さんは一度もこんな風にしてくれなかったな。これまでの彼女たちは、ペアアイコンにしたりしていたみたいだけど、私はしてもらえなかったな。
大事だからこそ、しまっておきたいとか言っていたけど、結局、足手まといになるから、私の存在はひた隠しにしていたんだろうなー


一人でいる時間がなかったせいか、マイナス思考がひどいまま、また涙がこぼれそうになっていました。


何の気なしに、私はそれまで見ていたカップルの、彼氏の方のアカウントの投稿を見ていきました。
すると、見たことある男性の自撮り画像が掲載されていました。

見紛うはずがありません。

竹中さんです。

私は、偶然にも竹中さんのアカウントを見つけてしまいました。


ーそっか。向こうはもう新しい幸せを見つけたんだ。
こんなID載せたりしちゃうくらいなんだから、きっと自慢の彼女なんだろうなー



もしかしたら、奈美ちゃんの言っていた通り、これはネットから始まるスカウトなのかもしれない…。
けれど、この二人は東京と福岡。
ただのネット恋愛なのかもしれませんが、どちらとも言い切れないような、そんな内容でした。

けれど、投稿内容には彼女のことがたくさん書いてありました。
のろけが大半のようです。

本人なりの理由があったにせよ、日陰者にされていた私にとっては、ショックが大きかったです。


けれど、そんな私の気持ちとは裏腹に、私は無心に竹中さんの投稿をさかのぼっていました。

そして見つけてしまいました。

私に別れを告げてきた日の投稿です。

一言、最近うまくいかないことが多すぎる、とだけ書いてありました。
私のことだろうか、と思いながら見ていたのですが、
そのすぐ下、別れを告げてきたよりもさらに3日前の投稿。

「彼女がかわいすぎて死にそう」
「彼女と4時間も通話しちゃった」
「うりたんかわいいうりたんかわいい」


私はその日、通話もしていなければ、うりたんという名前でもありません。

…うりたんって誰…?


話の流れから察するに、このうりたんというのが彼女なのでしょう。
そして、竹中さんとペアアイコンになっている女性のアカウント名も「うりえる」。


どんなにきれいごとを並べたところで、
私はまた、この男に浮気されてしまったのです。


そして、今度は向こうから捨てられてしまいました。
私の頬に、一筋の涙が流れました。


信じた私がバカだったんだ。


思考も感情が動かないまま、ただ両目から涙が流れて止まりませんでした。



その時、部屋のインターフォンが鳴りました。
私は涙を拭いて、モニター画面をのぞき込みました。

奈美ちゃんは竹中さんからの別れの報告の連絡を受け、
いてもたってもいられず、すぐに竹中さんに通話をかけたそうです。

こんな時期に突然別れを告げたこと、本当にはらわた煮えくりかえるような思いだったようです。
私も、もし逆の立場だったら、同じ思いだったでしょう。
実際に行動に移したかどうかはわかりませんが…。


奈美ちゃんの話では、別れを告げた理由は、やはり大筋では私に話していた内容と同じでした。

しかし、「だから何なのか?」とそれぞれきつく問い詰めたそうです。
奈美ちゃんはやさしい人ですが、かなり、竹中さんの行動は奈美ちゃんの逆鱗に触れるものだったのでしょう。


奈美ちゃんは、竹中さんの発言の真意を私に話してくれました。



まず、竹中さんの話していたスカウトについて。

夜のお店に女の子をスカウトするということは、本来ならば犯罪に当たるそうです。
私は本当に世間知に疎く、違法行為であるという事すら知りませんでした。

そして、竹中さんの話していた「ネットでのスカウト」。
他の方の手法はわかりませんが、奈美ちゃんの話によれば、竹中さんの手法はこうだそうです。

まず、ネット配信などで女の子と仲良くなり、個人的な連絡先を交換します。
竹中さんが言うには、病んでいるような女の子がねらい目なんだそうです。
そして、恋愛感情を匂わせながらある程度仲良くなってきたら、頃合いを見図り、会う約束を取り付けるそうです。
もちろん、仕事の話とは言わずに、あくまでデートとして誘い出します。

誘い出し、ひとしきりデートをした後に、
「実は、こういうお店があるんだけど…。」
といって、キャストとして勧誘するそうです。


この時に、LINEやメールなどを使用して勧誘してしまうと「証拠」が残ってしまうため、あくまで会って話を進めるそうです。


竹中さんの「これからかなり時間がとられる」という言葉の意味するところは、こういう事だったようです。

また、自分がスカウトして女性を入店させると、スカウトバックという報酬が支払われるそうです。

そしてその報酬は、何も自分の所属する店に限ったことではないようです。


竹中さんの場合は、北は北海道、南は沖縄まで全国各地に「ネット上で」仲の良い女性を作り、
色恋を匂わせ、その地域地域の同業者に売り込んでいたそうです。
もちろん、対価をいただきながら、です。


「これと決めた女以外は、金にしか見えない。」


竹中さんがいつぞや漏らした言葉の意味が、分かったような気がしました。



竹中さんの歩んでいる道は、かなり険しく、危ない道です。
法の抜け穴というものを利用した手口のようですが、本当に不安しかないような世界にいる人なんだなと実感しました。

それと同時に、そういう世界でしか生きられなくなってしまった竹中さんを、かわいそうにさえ思いました。
ただ生きるためだけに、危ない橋を渡る生活…。
幼いころに大きな傷を受けてしまった竹中さんには、それしか道がなかったのでしょう。


しかし、それならば、なぜ竹中さんは私を一度も誘わなかったのか…。

私は思い切って奈美ちゃんに聞いてみました。


「好きだったから、売りたくなかったんだそうだよ。
大事にとっておきたいから、職場の仲間以外には存在すら隠していたらしいよ。

もちろん初めは、そういう目的もあって連絡先も聞いたのかもしれないけれど、
やっぱり自分だけの『高嶺の花』とやらを汚したくなかったんだとさ。

あんたは無駄にコミュ力もあるから、確かにそういう世界では高く売れるだろうよ。
スカウトバックとやらも、その辺のネットがお友達の引きこもりをうるよりかは、かなり入るだろうね。

実際、あの男の職場の同僚からも入店の誘いがあったらしいけど、あの男は断ったらしいよ。」



ーそうか、竹中さんなりに守ってくれたのかー


少し竹中さんの優しさに恩義を感じながらも、歯がゆさも感じました。

私も、竹中さんの支えになりたかったのです。
エールをありがとうなんていわれましたが、そんなものではお腹は膨れません。


ー私は役立たずー


そんな思いが、頭の中から抜けずにいました。

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