私の体調は、私が思っていたよりも芳しくないものでした。

「どうしてもっと早く受診しなかったの!?」

何人もの医師に言われました。

発症した時は本当に様々なことがうまくいっていて、この流れを腹痛ごときで止めたくなかったという思いが強すぎたのでしょう。

実際は「腹痛ごとき」なんて馬鹿にできるような様態ではありませんでしたが、
本当に、その時の良い流れを崩したくなかったのだと思います。


何日もの間高熱が続き、ほとんど食事もままならない状況でした。

彼との連絡も私が止めてしまうことも多く、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
けれど、彼は決して責めずに、私が返事をすればすぐに連絡をくれました。
仕事中だろうが何だろうが、です。

本当に、早く体調を戻さないとなと、おとなしく病院で治療に専念していました。



ある程度、体調が安定するまでに、何度も三途の川を渡りかけてしまいました。

しかしそのたびに何とか持ちこたえ、入院から2か月たつ頃には、丸一日起きていられるまでに回復しました。

もちろん、この間、彼には一度も会えていません。

けれど、私の状況を彼に伝えたり、画像を撮っては彼に送ってくれていた人がいました。


奈美ちゃんという方です。

もともとは私の友人でしたが、ご主人の仕事の都合で東京と自分の仕事のある地元を行き来する生活をしていました。
ゆくゆくは地元を離れ、ご主人の住む東京に居を移す予定だそうです。

そして、彼とは、私より一足先に、ネット上で知り合っていたそうです。
私も言われるまで、全然気が付きませんでした。

奈美ちゃんはたびたび私の地元に来ては、彼に私の近況を伝えいてくれていました。
意識がもうろうとしている中では彼に「生きているよ」と連絡することすらつらかった中で、
奈美ちゃんの存在は大きな支えになりました。


そして、もうすぐ退院できそうな兆しが見えてきた、ある夜のこと。


彼から連絡がありました。
いつも通りの互いの近況の報告など、他愛のない会話でした。

しかし、彼は突然こう切り出しました。



「しろ、一旦友達に戻ろう。
お互い一旦、距離を置いて見つめなおそう。」


唐突でした。


しかし彼は続けます。

「最近、スカウトやネットからのスカウトの仕事も増えてきて、女の子と食事に行ったり通話ばっかりすることが増えてきてるし、時間もかなり取られてる。」


ースカウト?ネットからのスカウトってどういうこと?―


「とても俺も辛い選択だけど、色管理もさせられてるから、焼きもちも妬かせると思う。」

「ボーイである以上、俺は恋愛には向いていないと思いました。」


ー知り合った時からボーイだったじゃない!今更職業なんて関係ないでしょ!―


「これは好きじゃなくなったからとか、しろが悪いとかじゃない。友達にも相談して、やっぱり別れたほうがいいなと思いました。
これ以上、自分の仕事のことで、病んでしまうしろは見たくない。」


ー確かに仕事が理解できなくて、それでも理解したくて自分なりに勉強した。亮平くんにも聞いたりもした。けれど、そんなの今更じゃない!
そもそも。その友達って誰?勝手なこと言わないでほしいんだけどな!―


「大好きだからこその決断です。」


ー大好きだから、その大好きな人とのことを私をよく知りもしない人に相談して、そして一人で勝手にこんな決断したんだ。―


「スカウトの仕事も本格的に始めました。だから、これからはどんどん時間が無くなると思う。
それに、夜の仕事をしている以上、やっぱり恋愛には向いていないなって思いました。」


頭の中ではいろいろ、言いたいこともありました。
けれど、すべては展開の速さと、ショックで、喉元まで来ては落ちていきました。


「いつもエールをありがとう!!それが俺の仕事のモチベーションです。
それと同時に、自分の中で、仕事の関係上とはいえ深くかかわっていることに罪悪感を感じていて、申し訳ないなと。

俺が一般の職業に戻ればそれが一番だけど、昼の世界は厳しいのです。僕のような人材はいらないのです。

こんな俺を大好きでありがとう。
だけど、俺といちゃいけない。
まっとうな道を歩んでいる、汚れていない人と恋人になった方がいい。」


ーそれは、本音ですか?友達に入れ知恵された文章ですか?―


けれど、寂しい、悲しい、また一人になった、一番に愛していた人を、また失ってしまった。


悲しみや混乱や怒り…
よくわからない感情で頭の中はいっぱいいっぱいでした。


ーこのままお返事をしたら、ただの喧嘩別れになってしまう。
この人にとっても、入れ知恵とかではなく、本当に苦渋の決断だったのかもしれない。
そんな人を責められない。―


私は、混乱したままお返事を返すことができず、
彼に少し待ってもらうことにしました。


「ちょっと待ってね。今、大事にお返事書いてるから。」


そう伝えて、少し時間を空けて彼に返信を送りました。


「お仕事お疲れ様です。
忙しいのに、いつも空いた時間に連絡をくれたこと、本当に嬉しかったです。
不謹慎かもしれないけど、今日だってたくさんメッセージ暮れて嬉しかったよ!

たくさん支えてくれてありがとうね。
大好きな人に支えられて本当に嬉しかったし、本当に死にかけたけど、生きててよかったって心から思えた。

それから、亮平くんの心の内が汚れてるなんて思ったことは一度もないよ。誰よりも優しくて、愛情深い人です。私は、その愛情と優しさに救われていました。

同時に、甘えてばかりの自分が情けなかったです。
偉そうに国家資格掲げて、夜の女の子よりも苦労せずに稼いでいる私なんて、本当に弱い存在です。
亮平くんは、私よりも、本当に強くて優しい人です。
そんな亮平くんにいただいた優しさと愛情を、倍にして返したかった。

元気になったら、いっぱいいっぱい返そう!
優しさと深い愛情に触れるたび、そう思っていました。


一般職だろうと夜職だろうと、これからも亮平くんを応援しているね。」



涙でぐしゃぐしゃになりながら返事を打ちました。
そして、打ち終えたころには、もう、私の体力も限界でした。



「気持ちが弱ると体も弱るぞ。
だから、はったりでもいいから気持ちを強くもて。」


震災の後、いろんなもの、いろんな人、すべてを失ったような気がして、避難所でショックからご飯も食べれずに一人うずくまっていた時、
支援物資のおにぎりを片手に私に声をかけてくれた、知らないおじさんの言葉です。


ーおじさん、気持ちが弱ると体も弱るって本当だね。
私にはもう、これ以上のはったりはかませないよ。―


遠ざかる意識の中、あの時にあった名前も知らないおじさんに話しかけてました。