奈美ちゃんは竹中さんからの別れの報告の連絡を受け、
いてもたってもいられず、すぐに竹中さんに通話をかけたそうです。

こんな時期に突然別れを告げたこと、本当にはらわた煮えくりかえるような思いだったようです。
私も、もし逆の立場だったら、同じ思いだったでしょう。
実際に行動に移したかどうかはわかりませんが…。


奈美ちゃんの話では、別れを告げた理由は、やはり大筋では私に話していた内容と同じでした。

しかし、「だから何なのか?」とそれぞれきつく問い詰めたそうです。
奈美ちゃんはやさしい人ですが、かなり、竹中さんの行動は奈美ちゃんの逆鱗に触れるものだったのでしょう。


奈美ちゃんは、竹中さんの発言の真意を私に話してくれました。



まず、竹中さんの話していたスカウトについて。

夜のお店に女の子をスカウトするということは、本来ならば犯罪に当たるそうです。
私は本当に世間知に疎く、違法行為であるという事すら知りませんでした。

そして、竹中さんの話していた「ネットでのスカウト」。
他の方の手法はわかりませんが、奈美ちゃんの話によれば、竹中さんの手法はこうだそうです。

まず、ネット配信などで女の子と仲良くなり、個人的な連絡先を交換します。
竹中さんが言うには、病んでいるような女の子がねらい目なんだそうです。
そして、恋愛感情を匂わせながらある程度仲良くなってきたら、頃合いを見図り、会う約束を取り付けるそうです。
もちろん、仕事の話とは言わずに、あくまでデートとして誘い出します。

誘い出し、ひとしきりデートをした後に、
「実は、こういうお店があるんだけど…。」
といって、キャストとして勧誘するそうです。


この時に、LINEやメールなどを使用して勧誘してしまうと「証拠」が残ってしまうため、あくまで会って話を進めるそうです。


竹中さんの「これからかなり時間がとられる」という言葉の意味するところは、こういう事だったようです。

また、自分がスカウトして女性を入店させると、スカウトバックという報酬が支払われるそうです。

そしてその報酬は、何も自分の所属する店に限ったことではないようです。


竹中さんの場合は、北は北海道、南は沖縄まで全国各地に「ネット上で」仲の良い女性を作り、
色恋を匂わせ、その地域地域の同業者に売り込んでいたそうです。
もちろん、対価をいただきながら、です。


「これと決めた女以外は、金にしか見えない。」


竹中さんがいつぞや漏らした言葉の意味が、分かったような気がしました。



竹中さんの歩んでいる道は、かなり険しく、危ない道です。
法の抜け穴というものを利用した手口のようですが、本当に不安しかないような世界にいる人なんだなと実感しました。

それと同時に、そういう世界でしか生きられなくなってしまった竹中さんを、かわいそうにさえ思いました。
ただ生きるためだけに、危ない橋を渡る生活…。
幼いころに大きな傷を受けてしまった竹中さんには、それしか道がなかったのでしょう。


しかし、それならば、なぜ竹中さんは私を一度も誘わなかったのか…。

私は思い切って奈美ちゃんに聞いてみました。


「好きだったから、売りたくなかったんだそうだよ。
大事にとっておきたいから、職場の仲間以外には存在すら隠していたらしいよ。

もちろん初めは、そういう目的もあって連絡先も聞いたのかもしれないけれど、
やっぱり自分だけの『高嶺の花』とやらを汚したくなかったんだとさ。

あんたは無駄にコミュ力もあるから、確かにそういう世界では高く売れるだろうよ。
スカウトバックとやらも、その辺のネットがお友達の引きこもりをうるよりかは、かなり入るだろうね。

実際、あの男の職場の同僚からも入店の誘いがあったらしいけど、あの男は断ったらしいよ。」



ーそうか、竹中さんなりに守ってくれたのかー


少し竹中さんの優しさに恩義を感じながらも、歯がゆさも感じました。

私も、竹中さんの支えになりたかったのです。
エールをありがとうなんていわれましたが、そんなものではお腹は膨れません。


ー私は役立たずー


そんな思いが、頭の中から抜けずにいました。