少しの間お休みお頂いたのち、私は職場にも復帰しました。

初めは半日だけ、そして慣れてきたらフルタイムと残業と、少しずつ体を慣らしていきました。


休んでいた分の遅れを取り戻すように、私はがむしゃらになって働きました。
しかし、ふと気が抜けた瞬間に思い出すのは奈美ちゃんから聞いた竹中さんの話でした。


彼が仕事のために、生活のために、違法ぎりぎりのラインのことをしているのは理解できました。
それしか道がなかったのでしょう。

本来ならば、この裏切りは仕事のためであり、
竹中さんからの別れの際の言葉を真実として受け止め、
自分から竹中さんに返した言葉の通り、
「夜職だろうと一般職だろうと竹中さんを応援する」のが筋なのだろうとは思います。


けれど、この言葉を送ったときには、私の頭の中には、うりえるという「第三者」の存在がすっぽり抜け落ちておりました。
だからこそ言えた言葉なのでしょう。


自分は悪くない、あくまでしろのためを思って別れるんだというスタンスが、今更ながら腹立たしく思えてきました。



別にその傷を癒そうと思ったわけではありませんが、
何の気なしに、私は新しい配信アカウントを取得しました。

ここで新しい出会いを…というわけではありません。

ただ、私のことを何も知らない人と話してみたかったのだと思います。


以前のアカウントは残したまま、
新たに「はる」として、以前よりはかなり小規模に配信者として生まれ変わりました。

「はる」になってからは、良くも悪くも視聴者さんとは距離を置き、深い付き合いはしないようにしていました。
そして、自分の体力とも相談しながらの配信だったので、本当に短時間しか行っていませんでした。

また、「はる」はもともとのアカウントほど、いい意味で愛想がなかったので、変な出会い厨も寄り付くことはありませんでした。
適当にBGMをかけつつ夕ご飯を作りながら、あるいは自宅へ物ち帰り仕事をしながら、片手間にお話をしているような配信でしたので、良くも悪くもかつての配信アカウントほどは人気が出なかったのです。


しかし、目聡い人にはすぐに見つかってしまいます。


「はるさん、初めまして。てか、あんた何してんのw」



早速奈美ちゃんに見つかってしまいました。
けれど、別にやましい話をしていたわけでも、
ましてやこれまでの経歴は本当に伏せたままの配信者として配信していたので、何も問題はありませんでした。


「ちょうどよかった。あんたに伝えたいことがあってさ。
ちょっと話せる?」


私は配信を切り上げると、奈美ちゃんからの連絡を待ちました。


ー奈美ちゃんは、本当に竹中さんにお説教でもしてきたのだろうかー


ぼーっとそんなことを考えていると、奈美ちゃんから着信がありました。

どんな真実を聞かされるのか、
あるいは奈美ちゃんがどんな言葉を竹中さんに投げかけてきたのか…

恐る恐る通話を取りました。

「もしもし?」

「配信中に悪かったね。今少し話せる?」

「別に真剣に配信業にいそしんでるわけじゃないからいいよ。普通の仕事で十分生活できるし。」

「それは間違いないね。どこかの信者からのお金でマンション借りてる女とは違うもんね。」


ナチュラルに苦々しい思い出をつつかれた気がしました。

配信と、その信者からの寄付で生きている女配信者、
そして、竹中さんに嘘をついて、内緒で夜の最下層の仕事をしているという女配信者。

その二人に負けてしまった一般職の私。


別に、配信者として名を上げたいとか、そういう気持ちは毛頭ありません。
インターネットで配信活動しているなんて知れたら、たとえとがめられることはなくとも、
現実世界では、まだまだ白い目で見てくる人もいるでしょう。

かつての、配信者になる前の私自身もそうでした。


けれど、今は配信をしている人を白い目で見ようとは思いません。
それは私の偏見であったこと、
わずかな期間ではありましたが、上記のような人以外にも、まともに働いている人でも、息抜きに配信をしている人がいるのを知りましたから。


そんなことを思いながら、奈美ちゃんからの話を待っていました。