奈美ちゃんから話を聞いた後も、私の頭の中には「復縁」の文字は浮かんでは来ませんでした。

竹中さんが身を切るような思いで、女性関係の清算をしていることはわかっています。

けれど、この話をきたせてくれた奈美ちゃん自身も話していたように、
裏切り、私を捨てたのは竹中さんであり、約束を破った竹中さんが一番悪いというのも明白です。

今更、どうしてこの人を許し、
またこの人の元に戻ることができるでしょうか。

確かに私は自他ともに認める「お人好し」ですが、すぐに
「はいそうですか」と、竹中さんと連絡を取る気にはなれないまま、時間だけが過ぎていきました。



しかしその思いとは裏腹に、私は竹中さんは、この間も女性関係の清算を黙々と行っていたようです。
一つ一つ片付けては、奈美ちゃんに報告していたそうです。


そして、「こんな汚れ仕事しかしていない自分を、しろは受け入れてくれるのだろうか」と、たびたび相談していたそうです。
仕事との狭間で迷いながらも、向こうはやはり「復縁」という道を望んでいたようです。


けれど、私は、この人の仕事が嫌いで去ったわけではありません。
この人に別れを告げられたから、この人のもとを去ることを決意し、
この人に裏切られたことを知ったから、この人の元に戻らないだけです。


奈美ちゃんもそれは重々理解してくれていました。
だから、どうしても私と復縁を望むのならば、それなりの誠意を見せてみたらどうかと諭していたようです。

しかし、小心者の割には、プライドだけは高い人です。
はじめこそは押して来ていても、本音を言ってしまえば、
誰かを追いかけるよりも、誰かに追われていたい、そんな人です。


浮気や私をきれいごとだけを並べて捨てたという事実を、
自分の非を認めるなんてことは、まずしない人です。


しかし、奈美ちゃんはそんなこの人の態度が、本当に許せなかったのでしょう。
私が復縁を受け入れようが受け入れまいが、まず竹中さんが自分の非を認めること、
そして誠心誠意頭を下げる必要があることを、必死に説いていたそうです。

さらに、こう言ったそうです。

「しろがあんたに復縁話を持ち掛けてくることなんてまずない。本気でそう思うのなら、自分から動きな。
あんたの望む結果になるかどうかは、しろ次第だけどね。
大博打になることは覚悟しておきな。」




私がこのやりとりを知ったのは、もう少し後になってからでした。

私は竹中さんの思いとは全く逆の方向に進もうとしていました。

ー新しい恋など見つけられなくてもいいから、せめて竹中さんのことだけは忘れたいー

今まで以上に、仕事に没頭していました。
新しく始めた「はる」というアカウントでの配信も、かなり小規模なものになっていました。

暇な時間というものを、なるべく持ちたくはなかったのです。


県外への出張にも、積極的に出かけていました。
本当に、毎週のように関東甲信地方に出張に出ていました。
もともとドライブが趣味だった私にとって、車での長距離移動は全く苦にはなりませんでしたし、
何よりも、竹中さんのことを忘れられる、いい時間でした。


しかし、やはり頭の片隅には竹中さんのことが常にあったのでしょう。
彼の住んでいる地域付近に仕事に出る際には、
自然と必要以上に周囲を見ないように、仕事以外の人とかかわらないようにしていました。

ー思った以上に、心には刺さっているんだな。これは重症だー


忘れては思い出しふさぎ込み、
また忘れては思い出してふさぎ込む…。

その繰り返しでした。


そんな日々を送っていた時、久しぶりに竹中さんから連絡がありました。

メッセージで一言、「しろって最近は何時まで仕事してるの?」と。


久しぶりに来た連絡に驚くとともに、そんなことを知ってどうするつもりなんだという思いがせめぎあいました。
その結果、私はすごくあいまいな返事をしました。

「非常に不規則だよ。」

あながち、間違いでもありませんでしたが、
この返答を皮切りに、最近の私の仕事内容について聞いてきました。

最近もまた出張しているのか?
どの辺の地域が多いのか?
今度はいつ東京に来るのか?

特にやましい仕事をしているわけでもないので、私は素直に答えました。
けれど、東京出張についてだけは、本当のことは答えませんでした。

まさか、実は今現在、都内にいますなんて、私は言える心境ではありませんでした。


すると、「今度来るときに教えて。」と返事がきました。

スケジュールを確認しましたが、次回東京に来るのは、かなり先になりそうでした。
それどころか、隣県の千葉や埼玉でさえ、なかなか近い予定にはありませんでした。

しかし、だからと言って、「やっぱり今、東京にいるから用事があるなら会おうか」なんて言えるはずもなく、
また予定が立ったらねということで、その場の話は終わりにしました。


ーとりあえず、会いたがっているー


これからどうするか、私は考えあぐねていました。



私は帰郷してから、このことを奈美ちゃんに話しました。


「別に会ってもいいと思うなら、会ってきてもいいんじゃない?
けど、相手はあの竹中だよ。もしも会ってみて、やっぱり許せないと思うのなら、何も話は聞かずにすぐに帰ってきな。」


てっきり、「やめておけ」の一言で片づけられると思いました。
しかし、なんだか会う事に対して背中を押されたような、
まだ心の中からあの人が消えていないことを見透かされたような、そんな気持ちでした。


その後も「いつ頃東京方面に来るか」という竹中さんの連絡が何度かありました。

そして、私はついに折れました。
「今月の19日に千葉で仕事があるから、その夜なら大丈夫だよ。その辺に宿取るつもりだから。」

私はうそをつきました。
その日は出張どころか、ため込んでいた代休消化のための連休でした。


ーこれで予定が合わなければ、ご縁がなかったということで、私はもうこの人とは会わないー


ある種の掛けでした。
しっかり心に決めて、送信ボタンをタップしました。
すると、すぐに返事がありました。

「その日の営業終わりなら会えると思う。近くで待ち合わせよう。」


あっさりと、会う予定が決まってしまいました。


ー会った後にどうするかは、その時に決めようー


奈美ちゃんに言われた言葉を思い出しながら、私はまず会ってみるという決断をしました。