地元に帰ってからは、またいつも通りの生活がスタートしました。


私は朝起きて仕事へ行き、
彼は夕方に起きて仕事へ行く。

相変わらずすれ違っていましたが、私たちには約束がありました。

「夏になったら、温泉に行こうね。」

彼から言い出したことでした。
私はそれまで、派手な世界に生きている彼がそのようなものを好むということは知らず、少し驚いてしまいました。
しかし、私はそういう世界にいるからこそ、彼はたまにはゆっくりしたいのだろうと、二人で温泉に行く約束をしました。

互いの空き時間を利用しながら連絡を取り合い、どんなところがいいかLINEで話し合っていました。
また、荷物のことなど考えて、彼とどこかの駅で待ち合わせて、私が車を出すことも決まっていました。

けれど、肝心の予定期日がなかなか確定しませんでした。


予定日さえ決まれば、先に有給の希望を出せるので、私は行くのなら早めに日程を決めたかったです。
また、宿泊先の予約も私の担当になってしまっていたので、その兼ね合いもあり、早めに彼の予定を知りたい状況でした。

しかし、こういう職業からなのかもしれません。
なかなか日程が知らされることはありませんでした。

職業柄仕方ないと割り切りつつも、言い出したのは彼でしたが本当は楽しみにしていないのかなと、一抹の不安を覚え始めました。


また、不安材料はそれだけではありませんでした。

元来、あまり相手を束縛をするのが好きではなく、また彼も立場上、私に束縛されるのはあまりよくないものだと思い、変に束縛はしませんでした。

けれど、それをいいことになのでしょうか…。

ほったらかしにされることが多くなりました。
温泉の計画の話し合いも、ろくに進みませんでした。


お仕事が忙しいのならば仕方ありません。
けれど、その話し合いの最中にも、突然返信がなくなったかと思えばネットの配信を始めたり、
「通話しない?」
と誘えば、
「来週の火曜日の10時ならいいよ。」
と、少し遠い時間を指定されてしまう始末でした。

けれど、仕事が忙しいのならば仕方ないと、ずっと涙をのんでいました。
それまでの間、彼がネットで配信をしていても、「きっとこれはお仕事の一環なのだ」と涙をのんでいました。

そして迎えた翌週の火曜日の10時。

彼から連絡はありません。
仕方がないので、10分くらい過ぎてから、私から掛けました。

出てくれません。

予定よりも半日以上過ぎてから、寝過ごしたと彼から連絡がありました。
もはや、本当かどうかも分かりません。

また、急に用事がありこちらから掛けた際には、話し中でした。

もう、疑心暗鬼にならざるを得ない状況でした。



そんな中、一人の女性が現れました。

「まさみ」と名乗る、ネットの配信者さんでした。
この方には、彼氏などの特定の方はいらっしゃらないようでした。

けれど、たいてい一人や二人、視聴者さんがいらっしゃって、その方を捕まえては長時間通話ばかりしているような人でした。
おそらく、何らかの事情で無職だったのでしょう。
私とは違い、時間がかなりあるように見えました。

この、私との違いが致命的なものになりました。

このまさみさん、彼とは恋愛的な関係ではないにせよ、私が仕事に出ている日中は、ずっと彼と通話をしていたようなのです。
当然、彼は夜はお仕事をしているのでいつも昼間は寝てしまうのですが、通話で彼を寝かしつけているようなのです。
私が連絡しても話し中なのは、全部が全部まさみさんとの通話ではないかもしれませんが、私は少なからず、心に冷たい風が吹き抜けていったのは言うまではありません。

念のため、奈美ちゃんにも相談してみました。


彼から、毎日のように復縁の相談を受けていた奈美ちゃんです。
この話を聞いて、怒らないわけがありませんでした。
遠距離恋愛なのに、連絡すらまともにとろうとしない…
ましてや、その理由が他の女性との通話でしたから。

そして程なくして、奈美ちゃんから連絡がありました。

他にも数名いるかもしれないけれど、確かにまさみさんとは連絡を取っていて、そのせいで私からと連絡を取れずにいることが何度もあったと。
直接まさみさんの配信に視聴者として潜り込んで話を聞いたそうなので、間違いはありませんでした。


普段の通話以外のやり取りも、だんだんと雑になり、減ってきていました。
けれど、お仕事なんだから仕方ないと、我慢していました。

たまに、辛い気持ちを彼に短い文章で伝えることはありましたが、それでも気持ちのほんの一部しか伝えられませんでした。



ー仕事の邪魔をしてはいけないー




本当に、我慢していました。