バカを見た正直者

ーネット恋愛や、ネットからの恋愛をしているあなたに読んでほしいブログー

Tag:失恋

奈美ちゃんから話を聞いた後も、私の頭の中には「復縁」の文字は浮かんでは来ませんでした。

竹中さんが身を切るような思いで、女性関係の清算をしていることはわかっています。

けれど、この話をきたせてくれた奈美ちゃん自身も話していたように、
裏切り、私を捨てたのは竹中さんであり、約束を破った竹中さんが一番悪いというのも明白です。

今更、どうしてこの人を許し、
またこの人の元に戻ることができるでしょうか。

確かに私は自他ともに認める「お人好し」ですが、すぐに
「はいそうですか」と、竹中さんと連絡を取る気にはなれないまま、時間だけが過ぎていきました。



しかしその思いとは裏腹に、私は竹中さんは、この間も女性関係の清算を黙々と行っていたようです。
一つ一つ片付けては、奈美ちゃんに報告していたそうです。


そして、「こんな汚れ仕事しかしていない自分を、しろは受け入れてくれるのだろうか」と、たびたび相談していたそうです。
仕事との狭間で迷いながらも、向こうはやはり「復縁」という道を望んでいたようです。


けれど、私は、この人の仕事が嫌いで去ったわけではありません。
この人に別れを告げられたから、この人のもとを去ることを決意し、
この人に裏切られたことを知ったから、この人の元に戻らないだけです。


奈美ちゃんもそれは重々理解してくれていました。
だから、どうしても私と復縁を望むのならば、それなりの誠意を見せてみたらどうかと諭していたようです。

しかし、小心者の割には、プライドだけは高い人です。
はじめこそは押して来ていても、本音を言ってしまえば、
誰かを追いかけるよりも、誰かに追われていたい、そんな人です。


浮気や私をきれいごとだけを並べて捨てたという事実を、
自分の非を認めるなんてことは、まずしない人です。


しかし、奈美ちゃんはそんなこの人の態度が、本当に許せなかったのでしょう。
私が復縁を受け入れようが受け入れまいが、まず竹中さんが自分の非を認めること、
そして誠心誠意頭を下げる必要があることを、必死に説いていたそうです。

さらに、こう言ったそうです。

「しろがあんたに復縁話を持ち掛けてくることなんてまずない。本気でそう思うのなら、自分から動きな。
あんたの望む結果になるかどうかは、しろ次第だけどね。
大博打になることは覚悟しておきな。」




私がこのやりとりを知ったのは、もう少し後になってからでした。

私は竹中さんの思いとは全く逆の方向に進もうとしていました。

ー新しい恋など見つけられなくてもいいから、せめて竹中さんのことだけは忘れたいー

今まで以上に、仕事に没頭していました。
新しく始めた「はる」というアカウントでの配信も、かなり小規模なものになっていました。

暇な時間というものを、なるべく持ちたくはなかったのです。


県外への出張にも、積極的に出かけていました。
本当に、毎週のように関東甲信地方に出張に出ていました。
もともとドライブが趣味だった私にとって、車での長距離移動は全く苦にはなりませんでしたし、
何よりも、竹中さんのことを忘れられる、いい時間でした。


しかし、やはり頭の片隅には竹中さんのことが常にあったのでしょう。
彼の住んでいる地域付近に仕事に出る際には、
自然と必要以上に周囲を見ないように、仕事以外の人とかかわらないようにしていました。

ー思った以上に、心には刺さっているんだな。これは重症だー


忘れては思い出しふさぎ込み、
また忘れては思い出してふさぎ込む…。

その繰り返しでした。


そんな日々を送っていた時、久しぶりに竹中さんから連絡がありました。

メッセージで一言、「しろって最近は何時まで仕事してるの?」と。


久しぶりに来た連絡に驚くとともに、そんなことを知ってどうするつもりなんだという思いがせめぎあいました。
その結果、私はすごくあいまいな返事をしました。

「非常に不規則だよ。」

あながち、間違いでもありませんでしたが、
この返答を皮切りに、最近の私の仕事内容について聞いてきました。

最近もまた出張しているのか?
どの辺の地域が多いのか?
今度はいつ東京に来るのか?

特にやましい仕事をしているわけでもないので、私は素直に答えました。
けれど、東京出張についてだけは、本当のことは答えませんでした。

まさか、実は今現在、都内にいますなんて、私は言える心境ではありませんでした。


すると、「今度来るときに教えて。」と返事がきました。

スケジュールを確認しましたが、次回東京に来るのは、かなり先になりそうでした。
それどころか、隣県の千葉や埼玉でさえ、なかなか近い予定にはありませんでした。

しかし、だからと言って、「やっぱり今、東京にいるから用事があるなら会おうか」なんて言えるはずもなく、
また予定が立ったらねということで、その場の話は終わりにしました。


ーとりあえず、会いたがっているー


これからどうするか、私は考えあぐねていました。



私は帰郷してから、このことを奈美ちゃんに話しました。


「別に会ってもいいと思うなら、会ってきてもいいんじゃない?
けど、相手はあの竹中だよ。もしも会ってみて、やっぱり許せないと思うのなら、何も話は聞かずにすぐに帰ってきな。」


てっきり、「やめておけ」の一言で片づけられると思いました。
しかし、なんだか会う事に対して背中を押されたような、
まだ心の中からあの人が消えていないことを見透かされたような、そんな気持ちでした。


その後も「いつ頃東京方面に来るか」という竹中さんの連絡が何度かありました。

そして、私はついに折れました。
「今月の19日に千葉で仕事があるから、その夜なら大丈夫だよ。その辺に宿取るつもりだから。」

私はうそをつきました。
その日は出張どころか、ため込んでいた代休消化のための連休でした。


ーこれで予定が合わなければ、ご縁がなかったということで、私はもうこの人とは会わないー


ある種の掛けでした。
しっかり心に決めて、送信ボタンをタップしました。
すると、すぐに返事がありました。

「その日の営業終わりなら会えると思う。近くで待ち合わせよう。」


あっさりと、会う予定が決まってしまいました。


ー会った後にどうするかは、その時に決めようー


奈美ちゃんに言われた言葉を思い出しながら、私はまず会ってみるという決断をしました。

「あれは本気だったと思うよ。けど、仮にそれを実行したとしても、こっちには確認のしようがないからね。」


女性関係を清算して、私を迎え入れる準備をする。

これまでの所業を考えれば、その時は本気だったとしても、今はどうかはわかりません。
何より、仕事のために複数の女性たちとそういうことをしているというのならば、
その生命線たるものを切る覚悟が本当にあるのか…。

あるいは、私などのために切らせてしまってもいいものなのか…。


私は思案していました。


すると、奈美ちゃんが続けます。

「あの男に、どこまでやれるかわからないけど、既に切る作業とやらは始めているみたいだよ。
ほんの今朝の話なんだけど、うりえるじゃないけど、あいつの配信の視聴者が一人、『彼氏と別れました』みたいなことをTwitterに上げていたからね。
9人のうちの一人という確証はないけれど、私は可能性は大いにあると思って見ているよ。」


ーそうか、既に始めているのか…縁切りの作業をー


「あの男の話が本当なら、他の女たちもうまい具合に他の同業者の男に売られるか、さっさと何らかの方法で金にするんじゃないかな。
そんな人数、すぐには捌けないだろうがって言ったら、こいつらのことは金としか見ていないから、いつでも切れますとか言ってたよ。残酷だけど、そこまでしてあんたを取り戻したいみたいだよ。
多分、あんたにしてもらったみたいに真剣に誰かに思われたことなんてなかったんだろうね。
それのありがたみに今頃気が付いたみたいだよ。
本当に馬鹿な男だね。」



私の見えないところで、人ひとり、いや、何人もの人の人生が変わろうとしていることに、少し戸惑いを感じました。

しかし、これは彼自身が竹中さんの意志で行っていることです。
そもそも、9股もかけていること自体がほめられたことではないですし、
目的は何であれ、それを卒業しようとしているこの人を、下手に私が口をはさんで止めることなどできようはずがありません。


竹中さんにある意味利用された人は、かわいそうだったかもしれません。
けれど、その人たちのことを思いやれるほどの気持ちの余裕は、私は持ち合わせていませんでした。


かといって、じゃあ、竹中さんとよりを戻したいかと聞かれれば、
それもまだ考えられない状況です。



「別に、こんな話聞いたからって、あんたが責任を感じることはないし、一番悪いのは竹中なんだよ。そこは、何がどう動こうが変わらない。
私も、竹中がここまでしているんだから、あんたもよりを戻す方向で考えてあげたら?なんて言うつもりもないよ。
たださ、あのバカもバカなりにいろいろ考えてるのは確かだし、お人好しのあんたのことだから、あのバカがどうしてるか心配なんじゃないかと思って話しただけさ。
だから、頭の片隅に入れておくだけでいい。何なら今の話は忘れてもいいよ。
私が話したかったから話しただけさ。」


奈美ちゃんには、本当にかなわないと思いました。

未練という言葉では片づけられないような、竹中さんへの心配と不安が渦巻いては消えている毎日だったのは確かです。
ちゃんとこの先、この人は生きていけるのだろうか…。
親心のような心配をしていた日さえありました。


本当に、どこまでも私の心の内を読んでいる人だなあと感じてしまいました。

食事が済んだあと、場所を変えて、私たちは話の続きをしました。

「竹中は、もううりえるとは終わりにしたいらしいよ。」

それはそうだろうなと、私も思いました。
強気な発言も多いし、巨星だけで生きてきたようなところもある男ですが、
今回ばかりは巨星の晴れる相手ではないことは、私にもわかりました。

けれど、私は知っています。
あの二人のツイッターを見る限りでしか、二人の関係性については伺い知ることはできませんが、
少なからずこの二人は何度が喧嘩をしています。

そして、そのたびにうりえるさんに追いすがられて、仲直りしているのです。

「別れようとしたところで、うりえるさんが竹中さんを話さないんじゃないかな。」

私は奈美ちゃんに問いかけました。

「確かに、あの男は自分のことを追い回してくれるような女を好む傾向にはあるね。
確かに容易じゃないと思うよ。
けれど、今回ばかりはわからないだろうね。」


そして一息ついた後、奈美ちゃんは続けました。

「竹中がね、しろの近況についてたやらと聞いてくるんだよ。」

「私の?」

あんなにうりえるさんにご執心の竹中さんにとって、私のことなど、頭の片隅にすらないと思っていたので、本当にそれは、思ってもみない言葉でした。


「そう。あんたの近況だよ。
また体調壊したりしていないかだとか、仕事には戻れたのかとか、無理していないかとか。
彼氏でもないくせに、そんなこと聞いてどうするとは言ってるんだけどね。」

全くその通りです。
浮気のこと、それを隠して自分の都合のいいことばかり口にして別れたこと、
私は許したわけではありません。

「随分と調子のいい男だね。こっちの気も知らないでね。」

「まったくだよね。
まあ、勝手に死んだことにされても困るから元気にしているよとだけは伝えた入るけどさ。」


別に、竹中さんの中では、私は死んだことになっていてもいいんじゃないか、
そう心の片隅で思ったのも事実ですが、奈美ちゃんの好意を無下にすることもできないので、その言葉は呑み込みました。


「さっき、あんた、『あの男は自分のことを追い回してくれるような女を好む』って言ったじゃん。
あいつ、本当に馬鹿だなって思うんだけど、あんたのこと振っておいて、本当はあんたに追いかけてほしかったみたいだよ。」

「……は?」

思わず、不快感をあらわにしてしまいました。


「なんでもね、そうやって自分が逃げても追いかけてくるような女を大切にしていきたいんだって。
そうやってある意味ふるいにかけているというか…。
だからあの時も、あんたに追いかけてほしいって気持ちがあったみたいだよ。
仕事とはいえ、9股もかけていたような男のくせに、本当に虫のいい話だけどね。」


本当にその通りだと思いました。

けれど、私は直感的に感じました。
この人は、本当に自分に自信がない人なんだなと。
自分には価値がない、生まれてこなければよかった存在という決めつけが、いまだに心の中にあるのだなと。

だから、あえていろんな人を試して、ふるいにかけて、最後には誰も残らない…。
ちょうど母親に甘える子供のように、両親を試す幼子のようなことを繰り返してきたのでしょう。
そんな状況の中を、ずっと生きてきたんだろうなと、容易に想像できました。


「けど、あんたはそういうタイプじゃないでしょ?」

奈美ちゃんの問いかけに、私は返します。

「そうだね。多分、付き合ってしまえば相手を疑いたくはないから、試すことはしないかな。
特に竹中さんは『浮気はしない』って約束したうえで付き合っていたからね。」


「だろうね。
そんなあんただから、あんたは奴からの別れを素直に受け入れた…。そういうことだよね。
けど、あいつにとっては、それは誤算だったらしいよ。

あんたは追いかけてこなかった。それどころか、あんな男に感謝の言葉さえ伝えて立ち去った。
これがかなり刺さってしまったみたいだよ。

確かに9人の中の一人だったかもしれない。けど、奴にとっては、決して金として扱うことのできない唯一の存在があんただったんだよ。
それを、自らの自信のなさと甘さで手放したわけだ。本当に、バカな男だよ。」


奈美ちゃんは、竹中さんの生い立ちのことは知らないようでした。
だから、簡単に竹中さんの行動をバカだと批判できたのでしょう。

確かに、私も、試された側としては、まったく怒りを覚えないわけではありません。
けれど、怒りよりも先に哀れさを感じてしまいました。


ーあの人が欲しかったのは、ただの彼女じゃなくて、お母さんだったんだー


「あまりの馬鹿さ加減にさ、もう面倒だから一から教えてやったよ。
どうしてあんたが、竹中の後を追わなかったか、
それと、それまでどれだけ信頼されていたか、そしてどれだけひどいことをしでかしたのかをね。
そうしたら、あいつなんて言ったと思う?」


私が答えが見つけられず困惑していると、奈美ちゃんは教えてくれました。


「『しろは、もう俺のもとには帰ってきてはくれないんでしょうか?』だとさ。
今更もう遅いって話だよね。
だから言ってやったよ。『9股かけて、なおかつ表でうりえるうりえるってのろけてる男のところに帰るほど、あの子は馬鹿じゃないんだよ。あんたやあんたが売ろうとしてる、頭の悪い女連中とは違うんだよ。』ってね。」


あんたみたいな人間をただひたむきに信じていた女を裏切った罪は、本当に重いと思うよ。
もう二度と表れないだろうし、しろにしたって、9股は知らないとしても浮気の事実は知ってるんだから、もう帰ってこないかもね。


私のことを思ってというのもあるのでしょう。
奈美ちゃんは竹中さんにそう伝えたそうです。


すると、竹中さんは奈美ちゃんに向かってこう宣言したそうです。



「俺はこれから、うりえるも含めて、全員の女を切ってきます。
しろ以外はいらない。」

随分と長居をしてしまったのでしょう。
高杉の工場を出るときには、日がすっかり傾きかけていました。

「夕暮れは危ないから、気をつけて帰るんだよ。」

高杉はやさしく声をかけて、私を見送ってくれました。


ーああいうところに奥さんも惹かれたんだろうなー


そう思いながら、私は家路を急ぎました。

ーそういえば、夕ご飯の材料を買いに行くの、忘れてたな。夕飯、何にしようー


すっかり話し込んでしまっていたせいで、完全に頭から抜け落ちていました。
お惣菜でも買って帰ろうかなとスーパーの駐車場まで来た時に、奈美ちゃんからの着信がありました。

「今日の夜ひま?一緒にどこか食べに行かない?」


私は、二つ返事で誘いに乗りました。

やがて、約束していたパスタ屋さんに行くと、奈美ちゃんは既に到着していました。

「遅くなってごめんねえ。」

と頭を下げながら、二人でお店に入っていきました。
そして、それぞれ注文をすると、奈美ちゃんが

「竹中のことなんだけどさ…」

と口を開きました。

まだ何の気持ちの整理もついていませんでした。

ー聞いたところで、私にはどうすることもできないし、心の余裕がないよー

そう思いながらも、奈美ちゃんの次の言葉を待ちました。

「竹中、あんたと付き合っていた時、9股してたんだって。」


もう、言葉が出ませんでした。
すると、奈美ちゃんが話を続けます。

「もちろん、例のネットからのスカウトってやつだね。金にするんだってさ。
もう、ここまではっきり言われちゃうと、逆に気持ちいいよね。」


ーなんだ、お仕事関係かー


騙されている方々には申し訳ないけれど、もう、竹中さんに騙されてしなった女性たちには、何の感情もわきませんでした。
いえ、正確には、少しうらやましかったです。

騙されているとはいえ、好いた男の役に立てるのだから、私はうらやましく思えました。


「だからね、何の感情もわかないけど、頑張ってご機嫌取りをしているみたいだよ。」


そうなんだ。としか、返事ができませんでした。


「それでさ、うりえるなんだけど」

ーああ、一番聞きたくない名前だ…ー

表情に出てしまったのか、奈美ちゃんはやっぱり今はやめとこうか?と気を遣ってくれました。
けれど、こうやってあえて話してくれるということは、
遅かれ早かれ、私が聞いた方がいい内容なのだろうと、私は心を決めました。


「うん。大丈夫だから聞かせてよ。」

精一杯の作り笑いで答えました。
それなら話すけどさ、と奈美ちゃんは話を続けてくれました。


「どうにもうまくいってないみたいだよ。
なんでも、竹中がうりえるにカマかけてみたら、簡単に風俗で働いてるのをぽろっと話しちゃったみたいだよ。
当の本人はまだまだシラを切るつもりでいるから、必死に否定しているみたいだけど、嘘をつかれたってことで、竹中の不信感はMAXみたいだよ。」


それを聞いて、私は思うところは山ほどありましたが、黙って話を聞いていました。


「それでね、極めつけはあの女、実はかなりやばいやつなんじゃないかっていう話なんだよね。」

……やばいやつ?

「これまでの時点で、十分色々とやばい奴だと思うんだけど…。」

思わず、つっこみを入れてしまいました。


「まあ、それは間違いないんだけどね。
とりあえず、その場は竹中もうりえるの話に乗って、仕事のことに関してはなかったことにしたらしいんだけど、それから注意深く話を聞いていると、どうやらうりえるの使う言葉が普通じゃないらしいんだよね。」

「方言とかではなくてってこと?」

「方言じゃないね。よくよく思い返してみたら、事あるごとに『この世界から足を洗ったら、一緒に幸せに暮らそうね』とか、『堅気の女は甘いから、亮平にすぐに騙されるんよね』とか、竹中とけんかをすれば、『私がその気になれば、都内にある店の一つや二つ、簡単に潰せるんだからな』って脅してきたりとか。」

「奈美ちゃん、それってさ…。」

私は予想をはるかに超えた状況に、息を飲みました。

「まあ、何かの脅し文句に、そういう言葉を使うやつ買いるかもしれないよ。
けど、脅し文句だったにしても、この女はかなりやばいだろうね。
さすがに竹中も距離を取り始めたらしいよ。
万が一、本当にその手の人間だったら、竹中だってこの先、どうなるかわからないからね。」


もしも本当だったら、温室育ちの私には想像できないような怖いことが待っているのだろう…。


ー命の危機さえ感じてしまうような、そんな危険な人とかかわっているのかもしれないー


私は、私を裏切ったあの男に対し、あの時以来初めて、心の底から身を案じてしまいました。

私の心も荒み切っていましたが、竹中さんもまた、だまされていたという意味では被害者でした。

本来ならば、同情すべき部分でもあるのかもしれません。
しかし、この時の私には、まだそのような心の余裕はありませんでした。


日陰者にされ、絶対に公表されなかった私、
大々的に公表され、すごく大事にしていますよというようなアピールも散々されていた彼女たち。

正直に、竹中さんの言葉を信じ、日陰者でもひたむきに一途に相手を思っていた私がバカでした。



奈美ちゃんは、竹中さんがこれからうりえるさんとのことをどうするかはわからないけれど、
散々突き放しておいて尚も、一応申し訳ないという気持ちは持ち合わせているとのことでした。



けれど、仮にそういう気持ちが竹中さんの中にあるとしても、
それをどう受けとめたらいいかわからないまま、時間だけが過ぎていきました。




体力も回復していき、これまで通り少しずつ首都圏や関東方面への出張が増えてきたころ、
私は出張に使っている愛車の整備のため、近所の車の整備工場に行きました。


その工場では、高杉という男が私の車の担当に当たってくれていました。

高杉は私の幼馴染で、親の代から続いている整備工場で働いていました。


私の出向いた時間がちょうどすいている時間帯だったためか、他にお客さんは誰もおらず、高杉のお父さんも仕事で外に出ていたため、工場内には私と高杉の二人しかいませんでした。

幼馴染で、震災の後も近所に住んでいた割にはなかなか会う機会もなく、
久しぶりに会った私たちは、整備の合間合間に、
他愛のない世間話や、最近生まれたという彼の子供の話などで盛り上がっていました。



本当に、高杉は気心知れた仲間で、何かと困ったことがあれば、相談していた相手です。
けれど、震災で辛い思いをしたことや竹中さんとのことなどは、それまで一切話したことはありませんでした。


しかし、この頃は私も落ち込んでいたのでしょう。
誰かに聞いてほしかったんだと思います。
思い切って、高杉にこれまで竹中さんとの間にあったことを話してみました。


ーインターネットで配信なんて、絶対ドン引きされるー


そう思いながらも、私の頭の中はパンク寸前だったのでしょう。
配信を始めた経緯からアカウントまで、すべて話していました。


すると、高杉の口から意外な言葉が飛び出しました。

「俺も結構ネットやってるよ!たぶんしろよりもずっと前から。
俺はあんまり友達が多い方じゃないからさ、ネットを通じて友達が増えたらいいなって!」

意外でした。
幼いころから知っていて近くにいて気心知れた中であったせいもあるのでしょう。
高杉は友達が少ないなんて思ったこともありませんでした。
そして、ネット配信者としては私よりもはるかに先輩であったことも知りませんでした。

絶対、「ネットで配信とかお前、根暗過ぎない!?」
とか言われると思っていたのに、それどころか私の配信を見てみたいとすら言われてしまいました。

ただただ、驚きました。


本当に、私は偏見だらけの狭い世界にいたんだなと強く感じました。


予定していた整備もすっかり終わっていたのに、高杉は最後まで話を聞いてくれました。
そして、私に言いました。

「しろは、素直すぎる。」



以前、配信を始めたばかりのころにも、私によく懐いてくれていた学生のの視聴者さんにも、同じことを言われました。

「しろ姉は根っからの悪人なんていないって言うし、倫理の授業で習った性善説って奴を本当に信じているような人間だけど、いつか本当に悪い人に騙されないか心配。」


確かに、中学のころには、クラスにはそれなりに悪いことをしている同級生もいたし、
テレビをつければ、ニュースで犯罪が取り扱われない日なんてありませんし、不倫がテーマのどろどろの昼ドラなんかも放送されていたりもします。

今も昔もです。

けれど、いつもどこか他人事のように思えていて、
違う世界のお話としか考えられていなかったのかもしれません。


お堅い職業の両親に、少しか保護に育てられてしまったせいか、
本当に思考が温室育ちだったようです。

↑このページのトップヘ